上場企業を中心にユニークな企業のビジネスモデル・市場規模などをまとめて行きます。
インターネット小説・漫画投稿サービス アルファポリスの企業について
会社概要
・社名:株式会社アルファポリス
・代表者:梶本 雄介 東大→博報堂→アルファポリス創業
・設立:2000年8月25日
・上場:2014年10月30日
・決算:3月
・時価総額:66億円(2016年9月16日)
※足元が一時的に業績が落ちているようで、この1年の高値は現在の3倍超ほどの時価総額がある。
業績
2016/3期
売上3,345百万円
営業利益905百万円(27%)
経常利益904百万円(27%)
当期利益572百万円(17%)
⇒営業利益約30%と超優良。
ビジネスモデル
・アルファポリス - 電網浮遊都市 に投稿された小説・漫画などのコンテンツから、サイト内でのユーザー評価を参考に、書籍として出版すべきコンテンツを調達。
・調達後は、編集部において、コンテンツの品質・商品力を向上させた後、書籍として出版することで収益をあげる。
・出版事業で扱っているコンテンツはライトノベル・漫画・文庫。そしてそれらのタイトルのアニメ化・ゲーム化も行っている。
⇒多くのインターネットサービスの場合、Googleアドセンスや純広告による広告売上やユーザー課金による売上が多い中、出版事業による売上が大半なところがユニーク。
サービスのトラフィック
・Q6000件新規投稿、累計30,012件のコンテンツ(小説・漫画など)
・88.9万ユーザー
⇒100万ユーザー弱というかなり尖ったメディア。
サービスのコンテンツ内訳
・ライトノベル45.6%、漫画25.6%、文庫21.9%の2015年度実績。
⇒決算資料にはヒットタイトルの具体的記載があるが、ライトノベル・漫画で数十万部から数百万部の作品が並ぶ。
ライトノベル・漫画は単価1,000円前後が多いので、10万部×1000円であれば1億円の出版売上があがることになり、現在の年商30億円規模と言うことはイメージ的には300万部×1,000円をアルファポリスから産まれた書籍から販売していることになる。
アルファポリスならではのユニークポイント
会社四季報オンラインのインタビューアルファポリス・梶本社長「ヒット作を出す確率の高さが高利益率の源泉」にかなりビジネスモデルに関して詳細に答えているので引用しながら紹介します。
ーーインターネットで多くの人が読んでしまった作品なのに、書籍化しても売れるのはなぜですか。
実際に書籍を購入するお客さんの8割以上は、買おうとする作品を店頭で初めて知る人たちです。これに対し、ネット上で読んだにもかかわらず購入してくれるユーザーは最大でも2割程度。 また、書籍化した作品については、ネット上では一部しか読めないように対応します。
⇒ネットユーザーと書籍を購入するユーザーが異なる。
書店で購入する人に比べれば、ネット上でプロではない作家の小説をわざわざ読もうという人はそう多くありません。
⇒アニメ化して大ヒットした漫画などもあり、それに近いものと思われる。
ーー20代後半からの大人向けライトノベルが収益増の牽引役です。
従来はライトノベルというと10代向けが中心で、中高生が500~600円の小遣いで買える文庫サイズのものが多かったが、ここ数年は大人にも「ライトノベル的なものを読みたい」というニーズが高まってきました。ところが、書店では大人向けのライトノベルが売られていなかったため、1200円の定価をつけた単行本のライトノベル市場を新しく作り上げました。
「入口」のネット上では自然発生的に人気になったものを取り上げますが、出版するときには読者をきちんと狙います。ライトノベルの場合、表紙にはこれまで3等身や4等身の萌えキャラなどをあしらったものが多かった。しかし、大人向けとなれば、ジブリと同じように7等身や8等身のイラストを使う。
⇒ライトノベルは中高生のものと言われやすいが、お金を払いやすい大人向けのものが無かった模様。
ーー編集段階ではどのような「売れる努力」をしているのでしょうか。
30人弱の編集者が質を高めるための取り組みをしています。ネット上の作品は、日本語がたどたどしかったり、状況の説明があいまいだったりするものが多い。ゲラ(校正や誤植をチェックするための試し刷り)が真っ赤になるくらい、校正には力を入れています。
起承転結を考えずに書かれた作品が多いのも、ネット上のコンテンツの特徴です。特に冒頭の部分が冗長になってしまう傾向があります。書店の場合は、読者が立ち読みでパラパラと読み進め、「面白そう」と思って初めてレジへ持って行く。だから、冒頭が非常に重要です。
たとえば、漫画の主人公が不死身で、「チート(不正改造)」ではないかと思われるような能力を持つというキャラクター設定があったとしましょう。ネット上の作品だと、主人公の大学生活から始まり、異世界に行って「チート」能力を身に付ける、といった順で描かれるケースが少なくない。
これに対して書籍化する際には、冒頭から主人公とモンスターがバトルを展開するといったストーリーに編集し直すことで、読者の気を引く。その後は平凡だった主人公がなぜこのような状況になっていったのかという流れに改稿するなど、工夫を凝らしています。
⇒編集体制を持ち、ネットならではのコンテンツを書籍化出来る状態へ編集を行っている。
エンタメ業界には「ニッパチの法則(2割のヒット作が残りの8割の赤字をカバー)」がありますが、当社はヒット作を出せる確率が高い。ポテンヒットやぎりぎりの内野安打、という作品も含めて8割の売り上げが損益分岐点を超えています。
⇒8割が黒字化出来る体制を構築。これがすごい。コンテンツは打席数が大事と言われやすいが、80%が黒字化。
ーー電子書籍の市場が少しずつ拡大しています。
期待ほど伸びていないと感じています。じりじりと拡大するのは間違いないと思いますが、紙の本がなくなることはない。半分以上が電子書籍になることもない、との予測を立てています。
⇒電子書籍が伸びているとの向きもあるが、書籍市場全体からすると大したことはないと言えるとはよく言うが、今後どうなっていくだろうか。
インターネット上のコンテンツの産業化の可能性
・ポテンシャルあるコンテンツを集めるためのインターネットサービスの存在
・インターネットコンテンツからより多くの人に読まれるための編集体制の構築
・大人向けライトノベルという収益ジャンルの開拓
などかなりコンテンツ産業におけるヒントや、そもそもインターネット産業をリアルな産業の中で提供するためにヒントが多くありそうな会社でした。
参考
・2016.08.10平成29年3月期_第1四半期決算説明資料
http://v4.eir-parts.net/DocumentTemp/20160916_091344357_c2xapz45c5sxgnjmwbhrhz55_0.pdf
・2016.05.12平成28年3月期_決算説明資料
http://v4.eir-parts.net/DocumentTemp/20160916_095756158_fvhvcyzua2vtuiaix0whtv45_0.pdf
・IPO会社社長に聞きたい | アルファポリス・梶本社長「ヒット作を出す確率の高さが高利益率の源泉」 | 会社四季報オンライン