税務を中心に、ファイナンスから登記、さらには専門家の紹介までスタートアップのバックオフィス業務をトータルでサポートしている会計事務所Kepple Accounting Office。
スタートアップのエコシステム構築に貢献できる新しい会計事務所を目標に、現在は80社程の企業の会計業務を行っています。(その9割がベンチャー、スタートアップ)
今回は、自身も3年で独立する前提で大手の監査法人に入所し、Keppleを立ち上げるなどスタートアップマインドを持つ神先 孝裕氏に普段の業務や目指していることを伺いました。また、神先氏はSkyland Venturesファンドの運営会社であるスカイランドベンチャーズ株式会社の社外取締役も兼務している。
ベンチャーの主要なバックオフィス業務をトータルでサポート
-- 最初に現在のお仕事について伺えますか?
会計・税理士事務所をやっていまして、スタートアップを中心とする企業の税務顧問を主にやってます。具体的には、領収書や通帳などの必要資料を全て預かって、月次試算表・決算書を仕上げる記帳業務と、税金計算のために必要な税務申告書の作成ですね。そのほか、銀行融資のサポートや、資本政策の相談にものっています。
あとは行政書士の資格もありますので、設立もお手伝いしていますし、司法書士と連携して、登記業務もサポートしてます。
-- お客さんはスタートアップが中心になるのでしょうか?
今は80社くらいの会社とお付き合いをさせて頂いているんですが、8割以上がスタートアップ企業で、さらにそのうちの9割以上が、外部から資金調達済みの会社になります。エンジェル投資家か、ベンチャーキャピタルの資金が入ってる会社がほとんどです。今はシード~アーリーステージのベンチャーキャピタルやエンジェルの方から投資先を紹介されることが多くなってきました。
-- そういった企業の税務をサポートされているということですよね。
メインは税務顧問になるんですけど、これから起業を考えられている方とかだと、会社の設立からお手伝いさせてもらって。そのあと、税務顧問をさせていただき、領収書の入力作業からスタートして、税務署の提出書類等もこちらですべて対応して、人が増えて来たら社会保険の加入なども社労士さんと連携してサポートをしてというような流れですね。
資金調達を検討したい会社が出てくると、銀行との交渉をサポートしたりとか。あとは、投資家やその他専門家をご紹介したりもしています。
-- 投資家の紹介などもされているんですね。本当に幅広い。
そうですね。徐々にサポートの幅も広がってきて、資本政策の相談もかなり多くあります。新株予約権とか、優先株なども一緒に検討したり読み解いたりもしています。後は意外と多いのが登記業務です。
ベンチャーだと、本店移転しましたとか、役員変更しましたとか、増資しましたとか、法務局周りの手続きが多いので、そのサポートですね。あれは本当に、ある意味価値を生まない業務というか、書類を作成して役所に届け出るだけなんですよ。
だから、スタートアップが本業に使える時間を少しでも多く確保することが重要なので、私達がその部分を代行しています。
-- そういう業務は普通の税理士の方はやらないんですか?
一部の税理士はやってますけど、領域が若干違ってくるので、積極的にやらない方の方が多いですね。
-- 行政書士の資格や知識が必要になってくる分野ですもんね。
そうなんですよ。税理士は税務申告業務、行政書士は議事録や契約書の作成、司法書士は登記申請業務、会計士は株価算定など、それぞれ専門性の高い業務という感じで、資格ごとにできる業務が分かれてるんですけど、それを私達が全部まるっと、窓口1本でやってるようなイメージですね。
-- 神先さん1人で全部やっているんですか?
基本的には僕を窓口にしてやってますけど、今は6人でやっていて他に会計士もいますし、彼等と分担で担当をつけてやってます。
単なる税務の外注先ではなく、非常勤CFO・管理部長のような役割へ
-- 資格ごとに担当する業務がいい感じに分かれているというお話もありましたが、その分野を横断して、あえて幅広い業務をやってらっしゃるのはどうしてですか?
今ってベンチャーキャピタルがスタートアップの一番身近な支援者として地位を確立してますけど、税理士事務所がスタートアップを成長させていくってことに関して、貢献してる事例が少ないかもしれません。あそこの会計事務所が、こういうことをしてくれたから、私達は成長できたんだというのが、ほとんど事例としては聞かないですよね。
普通の税理士事務所は記帳や税務申告を代わりに行う、「経理の外注」になる事務所が多いのですが、それだけではあまり会社に貢献できていないと思っています。その点で私達はVCさんがサポートしているところと違った形で、スタートアップが私たちに求めるすべてのことをサポートすることで成長に貢献できるようにしたいなと。
ファイナンスのサポートもそうですし、外部人材の紹介もそうですし。そういったところも含めてサポートできるようにしたいなって思ってます。
そういう意味では、CFO・管理部長的な役割として使ってもらいたいなという思いがあります。
-- CFO・管理部長的な役割ですか。確かに幅広い手続きだけでなく、人材の紹介などは経営に深く関わってきますよね。
ただサポート業務はお金にしづらい部分もあって、人の紹介とかまさにそうなんですけど。その点できちんとビジネスとしても成立させていく必要があるので、会計事務所の軸となる税務業務でお金を頂きつつ、それに留まらない様々なサポートメニューを提供したいと考えています。
-- なるほど。税務の業務で売上をあげながらも、より深い付き合いというか他の税理士事務所や会計事務所がやっていないサポートもするんですね。
そうですね。実質、お金になりにくいサポート業務も積極的にやって、税理士事務所として更なる価値を出していくっていう感じです。
-- スタートアップがクライアントに多いというお話でしたが、どのような形で関わっていくのですか?資金的な面もあると最初からそこまでお金をかけられないというケースもあると思うのですが。
その場合は結構スポットでの業務のやり取りが多いですね。例えば、銀行の借り入れのサポートを単発でやる、決算の申告だけをお願いしますとか。月次でいただかないまでも、単発で関わりを持ちながらサポートするケースも、中にはあります。
けどやっぱり、投資家紹介して資金調達に成功したとか、そういったサポート事例があると、月次の顧問に切り替えて頂いたり、最終的には繋がっていきます。
とはいえ資金調達を既にしている会社だと、株主がいて数字はしっかり見て管理していかないといけなくなるんで、そういった会社が、お客さんには多いですよね。
スタートアップのエコシステムを担う会計事務所
-- お客さんが80社あるというお話でしたが、6人で80社見てるというのは業界だと普通なんでしょうか?個人的には多いのかなというイメージがあるんですが。
そうですね。業界平均的には、1人10-20社くらい見ます。だいたい1日1社やるとか、そんなイメージになるんですけど。
-- じゃあ、むしろそういう企業に比べれば、1人1人が1社に対して割ける時間は多いんですね。
普通、公認会計士だと1社CFOで入って業務をやるようなことが多いんですけど、会計事務所としてサポートする場合は、それぞれ20社ほどは支援できるんですね。だから会計士としても、業務の幅が広がったりとか、いろんな会社を見れる点で凄く成長できる環境になります。
-- 今後、特に注力したいことや既にされていることはありますか?
私達はスタートアップのエコシステム作りに貢献したいなと思っています。
スタートアップの起業家の方は、凄いエネルギッシュで若い方が多い一方で、管理面ではあまり経験がなくご自身でやると凄くハードルが高く難しかったりします。
その点で私達が管理業務に関する知識や経験を供給するのと同時に、人材や資金についてもKeppleを通じて循環するような流れをつくっていきたいなと思っています。
-- 人材面のサポートって、例えばどういうことをやりたい、もしくは、やっているんですか?
管理部門の人材を紹介したりとかですね。 上場準備とかフェーズが上がってくると、管理部門を社内に新設することが多いので、そこで経験やスキルのある良い人材を紹介するとか。
あとは、困ったときに相談できるような外部のアドバイザーを紹介してあげるとかですね。必ずしも社内で採用することを想定した人材に限らないですね。
-- 確かに、スタートアップの管理部門が必要になったときにそこをバリバリやれる人ってそんなにたくさんはいないような気はします。繋がりを作るのも難しそうですし。
スタートアップ界隈のイベントとか出るようなタイプの社長や会計士だと結構繋がりがあったりするんですけど。まったくそういうコミュニティに関わりない人もいるんで、そういった起業家や管理人材を、Keppleを通じてスタートアップコミュニティに入れてあげる。
そこのパイプ役になっていきたいな、というところです。特にバックオフィス系の人材はスタートアップとのコネクションが多い人はやっぱりそこまで多くないのが現状なので。
偶然参加したフットサルをきっかけにスタートアップコミュニティへ
-- イメージしてた税理士や会計士とは全く違いますね。お話伺っていて楽しいです(笑)
そうですね(笑)確かに普通の会計事務所とは少し変わった形でやってはいますね。
-- いつ頃から、今のようなスタイルを目指されていたんですか?
元々ベンチャー企業と関わりたい、そこをサポートしたいというのは以前からありました。ただ、今のようなスタイルで仕事をするようになった最初のきっかけはSkyland Venturesの木下さんと出会ったタイミングですね。2014年の夏頃です。
僕の監査法人の先輩でアカツキの監査役・3ミニッツの取締役をやってる石倉さんという方がいまして、石倉さんに呼んで頂いたグロービスの今野さんが主催するフットサルでカウモの太田さんと出会って。
その後カウモと顧問契約させてもらって、カウモに投資していた木下さんと出会ったんですね。
そこからスタートアップのコミュニティに少しずつ入れて頂いたんですが、凄くみんな熱い思いで仕事に向き合っていて、それに吸いつけられるような感じで。
最近だと#HiveShibuyaのような熱狂的なコミュニティがあって、顧問先が数社入っていることもあって僕も週1-2回は来ているんですがそこでの様々な出会いもきっかけにどんどんスタートアップと仕事をする機会が増えました。
-- 最初にフットサルに参加された時は既に独立されていたんですよね?
独立して半年後くらいですね。2013年の11月に独立しました。
-- ではそのタイミングが1つの転機となって、一緒に仕事をする人達やサポートの内容が変わっていったんですね。
まさにそこからですね。本当にそのフットサルに行ってなかったら今のような形で仕事をしていたのかどうかわからないので。フットサル熱いですね(笑)
独立する前提で監査法人に入所
-- それまでの半年間くらい、独立した当初はどんなことをされていたんですか?
サイバーエージェントの子会社の経理、財務を業務委託で1年間行ってました。それが独立して最初の仕事です。
-- ではスタートアップと言うほど少人数ではないかもしれませんが、IT系のベンチャー企業のサポートをされていたんですね。
そうですね、割とベンチャー気質の会社に入っていました。ただそこで働いている時は外部のスタートアップとはそこまで関わりがないので。外部との関わりがうまく持てるようになったのは、木下さんと出会ってからが多いかもしれません。
-- その時は会計の業務に専念していたんですよね。そこから業務の幅を広げていこうというのはイメージされていたんですか?
その頃からイメージはしていました。 ただ、まずは税務業務をとってこないと、最初からそこまで展開するのも難しいので。最初は税理士業務をやりつつ、そこから相談が増えてきたタイミングで、行政書士だったりその他の業務を拡大していったような感じですね。
-- 最初からそういうのを目指されていたのって、何がきっかけだったんですか?
相談を受けたものに関しては、すべてお応えしたいっていうのが僕の中にあったので、お客さんのニーズをすべてこなしているうちに、そういったトータルサポートをやるようになったっていうのが実際のところです。
-- それって、独立前に監査法人で働かれていた時からですか?
そうですね。監査法人にいるときに、スタートアップの支援をやりたいなって思ってやっていたんですが、実際あまり関わりはなかったんです。私の所属していた監査法人はスタートアップ界隈でもそこまで有名でもないので、最終的に独立しました。
-- ベンチャー企業をやりたいっていうのは、だいぶん前からあったんですか?
前からなんとなく思っていました。
僕の親族が全員独立していることもあって、自分も独立するのかなと。
後は高校時代の知人でも起業している人が何人かいるんですよ。みんなのマーケットの浜野さんは高校の同級生ですし、高校のサッカー部の先輩がグルメアプリのSARAHという会社をやっていたりします。
-- すごい環境ですね。
そういったこともあって、漠然とスタートアップと関わりたいっていうのは、以前からありました。勢いのある所で仕事をしたいと。
硬い組織の中で、ルーチンワークをひたすらするようなことは、僕はあまり向かないので。 最初の入りとして、公認会計士があって、そのあと税理士登録して、行政書士登録して。独立してスタートアップと共に働きたいなと。
公認会計士は2次試験に受かった後に3年実務経験を積むと最後の3次試験があって、3次試験に受かると正式に公認会計士として登録できるんです。その条件を満たしたタイミングで独立しました。
-- 会計士の方々って、割とそういう感じなんですか?3年で独立するのって。
全然いないです。僕の周りも全然いないです。
-- ですよね。1回入ったら、長年監査法人にいるイメージがありました。
待遇も良いですし、比較的みんないますよ。中には転職する人もいますが、独立する人はあまりいないです。僕はすぐ辞めちゃいましたけど(笑)
-- 入る前から独立前提だったっていうのは、とにかくベンチャーと仕事をしたかったからなんですか?
それにプラスして、自分の力でチャレンジしたいっていうのがありました。やっぱり、自分が思うことを自由にやりたかったんですよね。
先ほどもお話した通り、今やっているような業務の中では、ビジネス的にはあまり効率が良くないというかお金にしづらい業務もあったりします。
監査法人や普通の会計事務所だとそういった業務はやらないという判断をするかもしれませんが、自分の事務所であればそういった業務までとことんサポートすることができる。実際その業務で悩んでいたり、無駄に時間をとられていたりする会社もあるわけなので。
自分がやりたいと思った業務をやるためには独立するのがベストかなと思っていましたし、実際にやってみた今でもそう思います。
Keppleの税務・会計などのご相談がある方は
(後編に続く)