「カッコイイデザインではなく、プロダクトが伸びるためのデザインを目指して 」ナナメウエ池田大季氏に聞くスタートアップのデザイナーに必要なこと

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 「ひま部」、「SlideStory」といったアプリを手掛けるスタートアップ ナナメウエ。これまでも同社で活躍する様々なメンバーの働き方や考え方をインタビュー形式で紹介してきましたが、今回はナナメメウエ デザイナー池田大季氏@iTiekeyにお話を伺いました。

UIデザインやロゴ作成にとどまらず、アプリのパトロールなどまでユーザー体験に関わる幅広い業務を担っている池田氏の、デザインやスタートアップのデザイナーの役割についての考えを紹介していきます。

 

ユーザー体験の向上に繋がる仕事は何でもやる

-- デザイナーという立場になると思うのですが、どんな業務をされていますか?

ナナメウエ デザイナーとして働いていますが、Webアプリデザイン、UIデザイン、ロゴ、キャラクターデザインなんでもやります。ランディングページも必要になれば作るしコードも書くし。アプリのwebバージョンが必要ならそれも作るし。カスタマーサポートもします。UXを考えた時にアプリのパトロールとかいうのがユーザー体験向上に繋がるならそれ含めなんでもします。

 

-- かなり守備範囲が広い感じですよね。 

広いです。普通の会社の3職くらいやってんじゃないかと(笑) 

とにかく忙しいですね。でも全然疲れ方が気持ちのいい疲れ方だと思っています。やったらやっただけ返ってくるし、結果もまあ山登りという感じです。疲れたけど元気が出るので、仕事やったりすることが苦ではないです。どうしたらこうなるってのがみえてるのでそれに全力でやっています。

 

-- それは入社当時からなんですか?それとも業務をやっているうちに徐々に幅が広がっていった感じなんですかね? 

入社当時は開発中だったアプリのAndroid版のデザインを担当すると聞かされていて、実際数週間はその仕事のみをやっていました。


ただ入ってみるとやっぱり人が常に足りていないスタートアップなので、気がついたら自然とあれもこれもとやるようになって、気がづいたら今に至るという感じです。


今行っている業務の中には、一見デザイナーとしてのスキルアップが期待できないような業務もあったんですが、気が進まないと思ったことは一度もなくて、それはやっぱりこのチームでいいものを作りたい、ユーザーを驚かせたい、幸せにしたい」といった熱い思いを持ったメンバーが集っているから、一緒にサービスを作っていて楽しいということに尽きると思います。

 

カッコイイデザインではなく、プロダクトが伸びるためのデザインを目指して 

-- かなり幅の広い業務をされていると思うんですが、入社されてから1番のチャレンジというか、しんどかったことってどんなことでしょうか?

 去年(2015年)の春頃ですかね。クリエーターが楽しく幸せにものを作れる会社だと思ってたんですけど、5月頃にお金を稼ぐためにはどうするか、もう少し考えようと会社の方針が変わったときのことです。

ビジネス的な視点ももちろん大切だとは思うのですが、デザイナーとして曲げなきゃいけないところも出てきたタイミングでした。このぐらい妥協しなきゃいけないとか。サービス作りの指標が「とにかくいいものを作ろう」ってところから「ユーザーに受け入れられるものづくりをしよう。スピード感を持ってサービスを出し、きちんとお金も稼ぐ」という方向にシフトしていったんです。

それにあたりデザインの方法とか、そもそものマインドセットを変えなきゃいけなかったので、その時は結構しんどかったです。

 

-- その時はどうやって乗り越えたんですか? 

ひま部をリリースした時、正直こんなもの絶対当たらないでしょと最初は思ってたんです。

このアプリ僕が入社してから作った第1号のアプリだったんですけれど、ナナメメウエCEO石濵さんがやたら自信を持ってあれこれ決めていて、割と細かい指示を受けて、その通りにデザインをしました。

「クオリティも120にするな、まずは70くらいで出そう」と言われて、実際60くらいと思うクオリティレベルでリリースに至りました。

作っている時はしんどい思いをしながらやっていて、リリースしてみたらかなり良い感じでサービスが当たっているんです。初めて何万人もの人が使うプロダクトを作って、それがすごくワクワクしたのと同時に、「ナナメウエCEO石濵さんが言ってたことって正しかった」と思いました。

そこですごいナナメウエの色に染まったっていうか、自分の中でサービス作りに対する考え方が変わりました。 

 

--自分の中では100のクオリティにしてからリリースしたいという気持ちもやっぱり強かったんですか?

クリエイターならみんなあると思いますけど、納得いくところまで詰めてだしたいって気持ちが自分の中でもあったんですよね。

でもひま部をリリースして以降は、最低限のクオリティのものができたらまずは出してみるという考え方が正しいなと自分の中で腑に落ちたというか。

今一般的に良しとされてる開発って社内でテストして改善してって、良くなった状態で市場に出しましょうという考え方なんですが、そうやって出したものもけっこうはずれたりしてるんです。

うちの開発は、もう使えるってなったら1回出してしまう。ユーザーテストを市場でやるんです。このスピードだと当たんないって思えばすぐに切れるし、実際のユーザーが使った結果、でてきた課題なので改善したものはすぐに結果が出る。そこがすごい楽しくて、そっちの方が正しいじゃんって思うようになりました。

それ以降は全然自分よがりなデザインではなく、プロダクトが伸びるためのデザイン開発にフォーカスできるようになったと思います。

 

--プロダクトを伸ばすためのデザインというのは、具体的にどんなことを工夫していますか?

 とにかく無駄を省くということですね。まずは最速でユーザーに使ってもらわないと何も始まらないので。各々プロフェッショナルがいるので、彼らのぼやっと持ってるアイデアを最速で可視化して彼らに「これ!」って言ってもらえるように努めてます。

例えば「こういうことユーザーにさせたいんだけど」って言われたら、インターフェースが原因だったり、またアプリ内の雰囲気に鍵があったり、またアニメーションのスピードを半分にするだけで解決されたり。

 

極限まで無駄を省くプロダクト作り 

-- 無駄を省くためには何が必要になるんでしょうか。それ以前と比べて何か変えたことはありますか?

 ここでいう『無駄』というのは、プロダクトのリリースを遅らせてしまうものだと思っていて、特に一度作ったデザインを大きく作りなおす『デザインの立ち戻り』は最も避けるべきだと考えています。

そのために進捗を効率よくシェアする方法や、コミュニケーションの取り方などをいろいろと試しながら、極限までこの無駄は省くこうとしていて、これは現在も試行錯誤中です。

 

-- 割とマインドセットだったり、コミュニケーションの方法によるところが多いんですか?それともスキル的な部分も必要になってくるんですかね? 

間違いなく両方ですね。「一刻も早くこのワクワクする新機能をユーザーさんに届けたい。」という気持ちはうちのメンバーであれば共通して持っていますし、そういう考え方で常に仕事をするのは大事だと思います。

一方で、コミュニケーションの方法はもちろんですが、そこをどう達成するのかとなった時に、デザイナーとしてのスキルや引き出しての多さ的な部分もやっぱり重要です。

ナナメウエに関してだと、外国人メンバーも交えて活発にディスカッションできる環境なので、日本人だけでは思いつきにくい手段や手法などに出会えるのがとても刺激的ですし、自分の幅も広がってきているなとは思います。

 

1スクリーンのデザイン案を100枚くらい作っていた 

-- 実際、1つのアプリを開発するとなった時に、どのくらいのデザイン案を考えるものなんですか?

そこはクオリティコントロールをしている社長の石濱さん次第な部分もあるんですが、それこそ最初の頃は1スクリーンのデザイン案を100枚作ったりとかしてました(笑) 

ただ最近は仮説力みたいなものが付いてきて、8パターンくらい問題解決のデザインがあったとした場合に、僕の中で4つは無いなってのがわかるようになってきて。この中だとこれが1番近いというのがわかるようになって着ています。

それを整理した上でナナメウエCEO石濵さんと相談しています。リリースしたものの数値とかを見ていると、彼は大体打率4割で僕は2割くらいですね。

 

--ちなみに100パターン作るときってどのくらいの時間がかかるものなんですか? 

パターンは自分の中にあるので早いです。1スクリーン1分もかからないくらいですね。

最初はわからないので考えられうるデザインは全て形にして、数を重視していました。ただ、パターンを出しまくることが却って進捗を遅らせているなと気づいて。そこからは出すパターン数を制限する代わりに、GoogleAnalyticsや動画のスクリーンキャプチャーなどのデータを見て、必ず結果を検証するようにしています。

この辺りは、うちみたいにスタートアップのデザイナーと大企業のデザイナー、あと受託やってるとこはそれぞれ考え方が違うんです。これから来るデザイナーには伝えたいですね。

 

スタートアップのデザイナーに必要なマインドセット 

-- スタートアップのデザイナーに求められる考え方の違いというのは?

ある程度の規模の企業であれば、「その会社がリリースするサービスとしてふさわしい質」が求められると思うんです。そうするとやはり会社の中で、近年サービスデザインの鉄板だと認識されている一定のフローを何度も何度も繰り返し、世の中に求められているクオリティを担保してからリリースすべきなんです。

それに対してまだ全く何も成し遂げていないと言えるスタートアップは、失うものはありません。一部の方には驚かれたりもするんですが、先ほども少しお話したようにナナメウエはユーザーテストを行う前にサービスをローンチします。仮に大企業が100の状態でアプリをリリースしているとすると、うちのサービスローンチ時のクオリティはせいぜい55~60程度です。

先にローンチしてから、実際のユーザーさんからフィードバックをもらったり、我々自らがユーザーになって四六時中サービスのことを考え改善していく。これは一見不格好なやり方かもしれませんが、0から100に到達するまでにかかる時間を考えると圧倒的に速いと考えてのサービス開発をしています。

このスピードが我々スタートアップの生命線だと考えているからこそ、『無駄を省く』ということもかなり重要になってくるんですよね。

 

-- 実際にご自身でもそのデザイナーマインドの違いみたいなものを体感されたことがあるんですか?

ナナメウエに入社する前に数百人くらいのインターネット系の会社でデザイナーとして働いていたんですが、サービスを出す際の考え方も、デザイナーの役割も全く違いました。 

まずディレクションの形が全く違うんですね。前職だとディレクターが一人いて、ワイヤーフレームとかUXとかはすべてディレクターがつくる。ここにボタンを置いて、アニメもこういうのがいいですねみたいに詳細に書かれたものが僕に渡されて、僕はそれに塗り絵をしていくようなイメージです。会社として一定の考え方や過去の事例があって、それをベースにクオリティの高いものを作っていく形でした。

今だと石濵が「こんなことしたい」とか「こんなことできるサービス作りたい」と口頭で僕にふわっと投げてきて。なんでもいいからイメージ湧くプロトタイプ作ってって(笑)

それに対して僕がUXの部分から考えて形にしていきます。そして普通の会社が9ヶ月で出すようなものをうちでは2・3ヶ月で一度出してみる。出した時のクオリティは9ヶ月のものの方が恐らく高いのですが、でも9ヶ月後にうちが到達しているクオリティは普通の会社のものよりはるかに高い。

それがスタートアップの戦い方であり、スタートアップのデザイナーに求められるものかなと。

 

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-- なるほど。池田さん自身がナナメウエのデザイナーとして、今注力していることやこれから担っていきたい役割みたいなものはありますか?

 

役割というか大切にしていることに近いんですけど、3つあります。

1つ目はスタッフ間のコミュニケーションから生まれるイメージのズレをなくすことです。ナナメウエは社員の半分は外国人なんですけど、日本人スタッフ全員がネイティブ並に英語が話せるわけではないんです。

だからこそ、時にはデザインツールを用いて、時には紙と鉛筆を用いてなるべくビジュアルを用いてスタッフ間の認識のズレを解消するということをデザイナーとしてやっています。

 

2つ目はUIの引き出しを他の誰よりも持っていること、そしてそのために他の誰よりもアプリをさわること。

社内で会議をする際には、『こういう機能をつけよう』といった形ではなく、多すぎず少なすぎない選択肢をチームに提示してなるべくノンストップでディスカッションを勧めるようにしています。

そのためには持っている引き出しの数がどれだけあるかが重要で、多すぎる選択肢を提示してしまわないように日頃から仮説力 *1 ”をつけることを心がけています。

 

そして3つ目が、デザインしているのは体験だということを忘れないことです。

デザイナーというとユーザーインターフェイス(UI)を作ったり、アイコンやビジュアルデザインの作成などにフォーカスしがちなんですけど、それらはいいサービスを届けるための手段であることは忘れてはいけないと思っていて。

実際に学生限定のコミュニティアプリであるひま部をリリースして最初の数ヶ月は70%をアプリの巡回に費やしていました。それは学生限定で、安全なコミュニティをデザインするのに唯一にして最も有用な手段だったからです。

結果としてアプリの巡回とか、カスタマーサポートみたいなこともするようになったんですけど、サービスの体験をデザインしているということは常に意識しています。

 

(後編に続く)

 

ナナメメウエで働くことに関心がある人はこちら

nanameue.jp

 

オフィスはこんな雰囲気です。

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